PICKUP MEDIA VOL.1
  • JOURNAL

*こちらの記事は株式会社ユニソン様の2023年カタログに掲載された内容を転載しております。株式会社ガレージ代表・二村昌彦を取材していただきました。許可をいただき、ここに転載いたします。(構成は一部変更しております)


 

▶「好き」にはきっと、無限の可能性がある。
社会のあり方が、大きく変わりつつある今。 これからの暮らしや働き方を含めて「自分はどうありたいか」を考える時期にさしかかっている。
「自分の“好き”に、 忠実に。」 2022年のインタビューで、コロナ時代を経験した私たちが忘れかけていた大切な感情を呼び覚ましてくれたのが、 <garage>の二村昌彦さんだ。
世の中の急速な変化にひるむことなく進化を続けるその原動力を探るため、私たちは再び、二村さんのもとへ。
自分の好きなことを自然体で楽しむ仲間とともに予想外のムーブメントを巻き起こしたストーリーを追体験する中で、未来につながるヒントが見えてきた。
「好きにやろうよ。」このメッセージは、もしかしたら自分本位に聞こえるかもしれない。でも決してそうではなく、今の時代にこそ必要な言葉だと気づかせてくれるはずだ。

 

【同じ価値観を持つ人々がつながり、 新たな可能性に挑む場所。 ショップの枠を超えた<garage>というコミュニティができるまで。】

▶15周年を迎える人気店の 知られざる創業ストーリー。
東京駅の赤レンガ駅舎を臨む、丸の内ビルディングの4階。 緑滴る植物園のような空間に、色鮮やかなドライフラワーやインテリアが並び、 都会の喧騒とは別世界のような場所がある。2022年12月にオープンしたグリーン&インテリアショップ <garage TOKYO>だ。 「植物と暮らす」をコンセプトに、 愛知県豊橋市の本店をはじめ、東京、横浜、 名古屋に7店舗を展開。植物とインテリアを組み合わせた暮らしの提案だけでなく、ワークショップやアートギャラリー、フォトスタジオにワークウエアプブランドなど、 植物を軸にした多彩なコンテンツを手がけている。
「初めてお店を訪れた人には、<garage>の世界観は確立されたものに見えるかもしれません。でも、創業当時からゴールを決めていたわけでも、ここまで一直線に進んできたわけでもないんです」。 そう話すのは、オーナーの二村昌彦さん。今から15年前、園芸を学んだオランダから帰国し、2007年に豊橋の1号店を構えたころの日々を振り返る。
「僕がオランダで影響を受けたのは、花や緑が当たり前のように生活にとけ込んでいたり、蚤の市に並ぶブロカント(古道具)を修理して大切に使う文化でした。 それを日本で再現してみたものの、なかなかお客さんが来ない(笑)。 『どうやったら素敵なお店に見えるだろう?』 と頭をひねって、樹木を植えたり、ディスプレイに工夫を凝らしたり。捨てられるはずだった古い木材や廃材を集めて什器をリメイクしたり・・・時間だけはあったから、寝食を忘れて手を動かしました。 お客さんに足を運んでもらうために、 木工DIYや寄せ植えのワークショップを始めたのも、このころです」。

▶うまくいかないからこそ 試行錯誤した経験が原点に。
日本一、素敵なお店をつくろう。ひとつの目標を掲げ、軌道修正を重ねながら次第に形づくられていく<garage>独自のスタイル。 二村さんのチャレンジの舞台も広がっていった。植物と音楽、フードを融合させたライブイベントを店舗で開催したのをきっかけに、 園芸以外の分野とタッグを組んださまざまなイベントを展開。そこで出会ったアーティストの作品を展示するために、ギャラリースペースが生まれた。さらに、庭の施工を請け負う中で作業着が必要になり、オリジナルのワークウエアブランドを立ち上げることに。 こうして次々に新しいコンテンツが派生していった。
「もちろんすべてがトントン拍子ではなく、オープンから5年ほどは苦しい時期もありました。 でも、うまくいかなかったからこそ試行錯誤できたし、窮地に立たされたからこそ生まれたアイデアがある。あの5年間は<garage> の大切な原点だと思っているんです」。
創業から15年経って店舗が増え、コンテンツの幅が広がっても、<garage>には一貫して変わることのないオリジナリティがある。それは、二村さんが常に時代やトレンドに左右されることなく、 「誰の真似でもない、自分が好きなことをやる」 というマインドを貫いてきたからだろう。

▶やり続けることで出逢えた ジャンルレスな仲間たち。
今でこそ観葉植物はブームを超え、ライフスタイルを豊かにするものとして、私たちの暮らしに定着している。 しかし、<garage>が誕生した15年前は、まだクローズアップされていなかった時代。業界の先駆けとしての苦労や困難も多かったというが、ここまで継続できたのはなぜだろう。
「やっぱり自分が好きなことだからでしょうね。しんどくてもやり続けていく中で、植物を愛するスタッフが集まってきたり、植物を通じてインテリアやアパレル、 音楽やアートなどジャンルレスな人々と出逢えたんです。 分野や世代や立場は違っても、共感してくれたり、同じ価値観をわかち合える人がいて、ともに過ごす時間や体験が増えるにつれ、新しいモノやコミュニティが生まれていった。その延長線に、 今があるんです。自分が想像していなかったことばかりですよ。創業当時は、まさか僕がアパレルのデザインに携わることになるなんて、思ってもみなかったですから(笑)」。
自分が好きなことを貫くのは、決して楽なことばかりじゃない。 時には遠回りしたり、人から見たら無駄に思えることもあるかもしれない。 「でも、 それでいいんです」と二村さんは笑う。 自分の感じるままに走り続けたその先には、思いもよらなかった新しい体験や出会いが待っていることを知っているから。 「好き」という気持ちは、 無限の可能性を秘めていることを知っているからだろう。

 

【自身の体験や、 みんなの 「好き」をシェアすることで、 誰も予想しなかった相乗効果が生まれる。】

▶スタッフ一人ひとりの 「好き」を表現できる場所に。
<garage> の店内を見渡すと、 商品をアピールするPOPが一切ない。 潔いくらいに情報を削ぎ落とした店づくりになっているが、二村さんは自身のメッセージや価値観をどうやって人々に伝えてきたのだろう。
「自分たちの好きなことを自然体で楽しむ。コミュニケーションを大切にする。それに尽きます。 例えば店づくりでいうと、それぞれの商品を理解しているスタッフがディスプレイすることで、『この商品のここを見せたい』という気持ちが反映されるんですよね。 すると、 お客様が自然に足を止めてくれる。 スタッフは自分が好きな分野のことだから、 お客様との会話が弾むし、商品の魅力がちゃんと伝わるんです」。
どの店舗でも、 多肉植物やドライフラワー、花器や食器など、 「その分野について語れるスタッフ」がエリアを任され、接客やディスプレイを担当しているという。実際に、スタッフの方におすすめの植物を尋ねてみると、 部屋のテイストや植物を置く場所、 生活スタイルなどを丁寧に聞き取ったうえで、 商品を提案してくれた。自信を持って勧められるアイテムだからこそ、ずっと愛着を持って楽しんでほしいという想いが伝わってくる。二村さんの体験に基づく価値観は、しっかりと受け継がれているのだ。
「お店づくりもイベント運営も、スタッフたちの『自分が好きなことを表現したい』という意思を尊重したいと思っているんです。最近では、 僕の商品の仕入れに同行したり、植物の専門的な知識を勉強したり、チャレンジ意欲のあるスタッフが増えてきて。 『好きな気持ちは、人を成長させるんだな』と実感しています」。

▶喜びの連鎖を生み出す ハブのような存在でありたい。
「自分が好きなことを通じて、誰かを喜ばせることができるって、とても幸せなことだと思うんです」 と二村さんは言う。 誰かとは、お客様やスタッフだけではない。例えば、植物の生産者やインテリアメーカーの人々にとって、<garage>は手塩にかけた商品の魅力を引き出し、その価値を伝えてくれる存在になっている。 あるいは、植物が持つ豊かさや潤い、 クリーンなイメージは、店舗が入る商業施設の空間づくりに一役買っているだろう。
「僕は<garage> に関わる人々をつなぐハブのような役割だと思っているんです。 誰かの 『好き』 が次の誰かの 『好き』につながって、 喜びの連鎖を生み出すような存在になれたらうれしい。 なにより僕自身が、人が喜ぶ顔を見るのが好きだから」。
二村さんは今、自分のあり方とともに組織としてのあり方を見つめ直し、「cultivate company」 という構想を練っているそうだ。cultivate(カルチベート)とは、耕すという意味。 土を耕して植物を育てるように、人を耕して成長させる。それによって、“喜びの連鎖を生み出すハブ” をもっと大きくしていくことが目標だという。

 

【植物の世界にも循環型のサイクルを。<garage>の次なる挑戦。】 

▶変化の時代だからこそ、 「好き」という気持ちを大切に。
近年、観葉植物のニーズが高まり、園芸業界を取り巻く環境が大きく変わる中で、<garage>はどんな未来をめざすのだろう。「これからの時代こそ、『植物が好き』という強い気持ちが差別化のカギになると思います。 どこでも植物が手に入る世の中で、自分たちは何を表現し、 お客様に何を伝えたいのか。 本質に立ち返るために、15周年を迎えた昨年、再び僕の出発点であるヨーロッパを旅しました。 現地の蚤の市をめぐり、やっぱり僕が素敵だと思うものは変わらなかった。<garage TOKYO>は、 創業当時にやっていたことを今の僕の視点で再構築したお店なんです」。
<garage>の原点回帰、それは新たなステージへの足がかりになった。 サステナブルという言葉が浸透するずっと前から、古材や廃材などの“ごみ”を宝に変える可能性を追求してきた二村さんならではの発想だ。 「植物を仕入れて販売するという従来のサイクルを変え、植物が循環するようなしくみを作りたいんです。自社ファームで植物を生産したり、状態が悪くなった植物を再生させたり、剪定した葉や枝をアレンジして商品にしたり。僕ひとりではできないことも、仲間と一緒なら、きっと実現できると思っています」。
15年前、たったひとりの「好き」を原動力にして始まった<garage>は、価値観を同じくする仲間を得たことで世界が広がっていった。そして今、二村さんは次のステージへ向けて舵を切り、 再び自分が想像できない未来への入り口に立っている。 年齢や経験を重ねても自分の限界を決めず、予測不可能な展開をポジティブに、柔軟に楽しむ二村さんの姿勢は、この時代を自分らしく生き抜くためのヒントを教えてくれる。