対談 VOL.1
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D&DPERTMENT
ナガオカケンメイ
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garage 二村昌彦

 

流行に左右されず長く使い続けられるデザインの品々を扱う「D&DPERTMENT」を経営し、ロングライフデザインをテーマに活動をするナガオカケンメイさん。実はgarageのホームである愛知県ご出身で植物がお好きということもあり、店舗同士でのコラボ企画なども行っています。

2021年10月10日、garage NAGOYA主催のイベントSCHOP内で、ナガオカさんとgarage代表・二村のトークセッションを行いました。今回はそのときの会話をもとに、ナガオカさんの暮らしのなかでの植物への想いや、これからのビジョンなどをまとめました。

 

<以下>
ナ)- ナガオカケンメイ
二)- 二村昌彦


 

ニ)最初の出会いは、ナガオカさんのSNSでの呟きがきっかけでしたね。それを見たスタッフから『ナガオカさんがgarageに来た!』という連絡をうけて、僕は勇気を出してSNSを通してナガオカさんに連絡しました。とんとん拍子に話が進み、名古屋の喫茶店で待ち合わせしたんですけど、初めて出会った時からすごく話しやすい方で、その後も交流が続き、僕の家にも泊まりに来てくれましたよね。ナガオカさんが初めてgarageに来た時はどんな印象でしたか?

ナ)僕はもともと大好きな植物屋さんがほかにあって、garageはそれを10倍くらい大きくした所でした。豊橋店は倉庫を改装してつくられていますが、そういう場所って非日常でなんだかワクワクするじゃないですか。で、なかに入っていったら植物がいっぱいで…、これをどうやってつくりあげたんだろう?と、ちょっと独特な視点からまず感動しました。二村さんの性格からは考えられないくらい建物の外側に小さくgarageのロゴが入っていて、その本人とは違った控えめな感じにも感動しました(笑)。もともと二村さんがgarageを立ち上げたときは、自分たちでいろいろなDIYをされていましたよね。この自分たちの手でつくりあげることがgarageの原点のように思うのですが。

ニ)そうですね、始めたばかりのころはお金もなかったし、自分たちで拾ってきたものを使っていかに格好良く見せられるかを考えていましたね。あと昔に少しだけオランダで生活をしていた時に、暮らしのなかで使い込んだ道具と植物をラフに組み合わせているのを見て、すごく格好良いなと思ったんです。それが今のgarageをつくるきっかけにもなっています。

ナ)garageが名古屋グローバルゲートに出店するとき、実はD&DPERTMENTも出店する予定でしたよね。もう5年前かな、それは叶わなかったけれど、今こうやって名古屋の場所に再び呼んでもらって店内を見ていると、店舗上下階をうまく使いこなしていて、結果良かったと思いますよ。こんな商業施設に、大々的にグリーンショップが入っているのは珍しいことですよね。

ニ)ありがとうございます!ひとりでできるだろうかと色々な葛藤があるなか、ナガオカさんが背中を押してくれましたよね。ナガオカさんの存在がなかったら、グローバルゲートに出店していなかったかもしれないです。

ナ)それはないでしょう(笑)それからも色々共感するところがあって、ふたりで気になる地域を巡るツアーをしたりとか。なんとなく、お互いが面白いとか興味があるだろうことにお互いを巻き込んでいく、という関係になりましたよね。

ニ)そうですね。太陽光などを使った自然エネルギーの暮らしを徳島に見に行ったり、藍染をしてみたり、阿波特有の半田めんの工場に見学に行ったり。渥美半島を巡るツアーでは、植物の生産者さんにも会いに行きましたよね。

ナ)渥美半島は海も近く、野菜もおいしい良い所ですよね。植物の全国的な名産地でもあり、頑張っていらっしゃる生産者さんにもたくさん出会えました。考え悩んでいる若い方たちと一緒に、ビニールハウスのなかでコーヒーを飲みながらお話しをして、個々の想いを知ることもできました。そんな産地を巡るツアーは、商品を取り巻く地域の観光や産業に焦点を当てる『もののまわり』の取り組みに繋がり、2019年にはD&DPERTMENT世田谷で『植物の産業を知る』(*1)というトークイベントを開催しましたよね。garageのポップアップショップやワークショップもやって、スタッキングできるサンコーの工業用運搬コンテナ(商品名:サンボックス)に穴を開けて植物を植え込んだりしたのですが、その時に確実にグリーンの需要が高まっているなと実感しました。

ニ)garageでも、そのサンボックスを扱わせて頂いていますが 、サンボックスを乗せるための華奢なフレームもあって、組み合わせて何通りものフレキシブルな使い方ができるようになってますよね。そこには植物も置けるし、傘立てにもできたりと、各々で発想を楽しめるような工夫がされてます。D&DPERTMENTには植物を楽しめるインテリア雑貨が他にもたくさんありますよね。

ナ)D&DPERTMENTのソウル店では、ガラスの植木鉢をつくりました。あと、受け皿を益子焼で作ったんですが、受け皿を上質にするだけで全体の雰囲気がとても良くなるので、これはおすすめです!受け皿で使わない場合は、食器としても使えますしね。

ニ)ナガオカさんご自身も、暮らしのなかで植物を楽しんでいますよね。

ナ)特別なことをするというよりは、300円くらいのプラ鉢の植物を買ってきてたくさん並べたり、ビニールポットをケース買いして置いて地面に生えているような風景にしてみたり。インテリアとしては、生活雑貨をいれてスタッキングしたサンボックスの一番上に植物を置いていますね。うちのマンションは古くて玄関がすごく暗いから、出勤前に玄関からベランダに植物を運んで日光浴させるんですけど、そんな時は足付きサンボックスを活用しています。

あと、経年変化したプラスチックものをコレクションしていて、以前、金沢のガラス作家・辻さんのギャラリーで、『nagaoka kenmei plastics』(*2)と題して、沖縄にあった40年もののプラ鉢を展示販売したんです。一風変わった趣味のように思われがちですが、今は金継ぎなどをしてお茶碗の表面を愛でるような文化的な目線を持つ方が増えてきましたよね。そんななかで、なぜかプラスチックだけが使い捨てと認識されていて。でも、それは捨てる人間がマナーが悪いというだけで、プラスチックも魅力を発見して愛でることができると思うんです。garageにも、経年変化したプラ鉢コーナーなんか作ってくれると良いな(笑)。

ニ)考えておきます(笑)。ナガオカさんは出張先でも鉢植えとか切り花を買っていて、生活にグリーンは欠かせないんだよ、と以前おっしゃっていたのが今でもすごく心に残っています。ナガオカさんのなかで植物はどんな位置づけなんでしょうか。

ナ)そうですね、ここ10年くらい本当に植物は必要な存在だと感じています。これだけ日々ノイズを浴びて生きていると、我々はちょっとしたことですぐに心が病んじゃう気がするんです。なにか心の拠り所がないと、今日が良くても明日はやばい、なんてことが起こりうると思います。

月火水木金土日って一週間がありますよね。それって何を意味するんだろうと考えた時に、それらを全部浴び続ければ人は健やかな状態で日々を送れるんじゃないか、という勝手なナガオカ的法則に辿り着きました。月を眺め焚き火したり、水をかぶったり。土を触ったり、日光浴したり……。そういった流れで木々に触れているような感覚を持ち続けるために、グリーンは常に近くに置いておきたいなって。自分が生きていく上で気持ちを整えていくためにどうしても必要なものだなと思っています。

この前、伊勢神宮の方にお会いする機会があって、お話を聞いたところ伊勢神宮に若い方々の参拝が急増しているらしいんですよ。宮司さんいわく伊勢神宮は森なんだそうです。人が森に入ると、なにかしら癒しのような効果があると言われていますよね。つまり若い人は特に感覚が敏感だから、日々の生活のバランスを保つために、自然と感覚的に森に足を運んでいるんだなって、宮司さんもそう感じているそうです。

ニ)確かに。僕もお店がまだひとつしかない時は、現場で身体を動かしていたんですけど、デスクワークが多くなってからなんだか身体が重く感じるようになったんです。そこで意識的に週一位で畑仕事をするようにしたら、体調が整ってきました。土を感じることって大切ですね。

ナ)そう!大地はすごい。最近僕は静岡に家を建てて、庭に植物を植えたんですけど、地植えの植物は自然の雨だけで育つんです。そう考えると、大地は偉大ですよね。そんなこんなで、東京にいるのはちょっとしんどいなと感じてきまして。東神田に小さな事務所をひとつ残してほぼ解散し、地方に拠点を移すことに決めました。ホームページに移転したいという情報を載せたら、全国から100件以上の誘致が来て驚きましたね。県知事自らお話しを頂いたりもして、地方都市が移住者を望んでいる現状も分かりました。

ニ)その中から、ナガオカさんの故郷である阿久比町を選ばれましたよね。周りには半田や常滑があり、人口3万人に満たない町ですが、これからの店づくりを含めどんなビジョンをお持ちですか?

ナ)現在は月の半分以上、阿久比に暮らしているのですが、本当に何もないゆるい空気の町です。でもそれが逆に、これから自分の手で魅力を創っていけるというものすごい価値に思えましたね。もともと町単位で農業ができる土地に関心がありました。その土地で生産、消費することで、物を輸送しないからガソリンも使う必要がなくなります。農業を心地良くおしゃれに進化させたら、環境問題も直接解決できるような気がします。昔からの町の風景を残しつつ、阿久比がそんな場所になっていけば良いなと思います。

ニ)クラフトビールのブルーワリーをつくる計画もありますよね。自分たちが楽しいと思うことをしながら、地域産業を支えることができるのは素晴らしいと思います。

ナ)二村さんも創業者だからきっと分かると思うけど、自分が楽しくて始めた事でも事業が大きくなってきて、段々やりたいことができなくなっていく矛盾を最近は抱えていました。だから、ここで自分の原点を取り戻さなければいけないと思い、レジ打ちも配達も自分で行こう!プレイヤーに戻ろう!とも思っています。

ニ)ナガオカさんは、自分がしていることは仕事1割9割遊びっておっしゃっていて、そんな姿勢がすごく素敵だなと思っています。そんな風に自分もなりたいです。これからもナガオカさんの背中を追っていきます!

約1時間半のトークセッションは、今の時代だからこそ原点回帰して、もう一度、自然と向き合い自分たちの力で生きていく。それは遊びのようなワクワク感と穏やかな安心感も含んでいることが理想だなと感じさせてくれる時間でした。ナガオカさん、ありがとうございました。


<参考サイト>
(*1)『植物の産業を知る』
(*2)『nagaoka kenmei plastics』

ナガオカケンメイ

ナガオカケンメイ

D&DEPARTMENT PROJECT
代表取締役会長

ロングライフデザイン活動家
「d design travel」発行人
「d47 design travel」「d47食堂」
「d47 MUSEUM」をプロデュース
(写真右)